Market Fundamentalism
市場原理とは,市場を通じて財・サービスの取引が自由に行われても,「神の見えざる手(市場メカニズム)」(アダム・スミス)によって,自ずとその需給と価格の調節が適切に行われることを唱えた経済原理である。また市場原理は,自由奔放主義による人々の完全競争が,人々の利潤を最大化し,国の富をも最大化するという自由主義経済を支持する原理でもある。
しかし一方,市場がその機能を十分に発揮できず,最適な経済取引が達成できなくなる「市場の失敗」という問題も指摘されている。この代表例が医療市場である。医療市場に市場原理が働かないのは以下の理由に基づく。(1)情報の非対称性:医療サービスに関する情報は医療提供側に偏っているため,患者側が合理的なサービス選択ができない,(2)不完全な競争市場:多くの病院・診療所が乱立する大都市は別として,医療サービスの提供が限られている地域では,そもそも患者が自由に選択を行える市場が成り立っていない,(3)疾病の緊急性・予測不能性:心筋梗塞で救急車に乗せられた患者に病院の選択の余地はほとんどない,(4)医療保険による市場のゆがみ:医療保険のおかげで患者は,必要以上に多くの医療サービスを購入しがちで,そもそも合理的な需給調整や価格調整が成り立たない(モラルハザード),(5)外部効果:外部効果とは,ある人や企業の行動や経済活動が,他の人や企業に対して付随的な効果を,市場機構を媒介することなく及ぼす現象のことである。たとえば企業活動の結果起こる公害が外部効果の良い例だ。公害の防止は市場原理には任せられない。同様に感染症対策なども市場原理にはなじまない医療サービスといえる。
以上,医療においては市場原理にはそぐわない「市場の失敗」問題が存在する。このため,これらの問題を緩和または調整するために限定的な政府の介入が必要とされている。