Balanced Scorecard
BSC(Balanced Scorecard)は,会計・財務指標が一面的,短期的,過去指向であることへの批判から,企業の業績測定の新たなアプローチとして,Kaplan,R.S and Norton,D.Pによって,1992年にハーバード・ビジネスレビューで発表された。当時は,戦略マップは無く,包括的業績評価のツールとしてのスコアカードのみであったが,1996年頃から戦略マップが意識され,現在では,戦略マップとスコアカードはワンセットと呼ばれている。当初は管理会計領域で興味が持たれたが,2000年頃以降は,経営戦略論として位置づけられている。医療では1995年頃から北米,ドイツを中心に応用され研究が増加した。
BSCは,競争優位性や組織価値を長期的に構築するには,投下資本やその効率的運用だけではなく,職員能力や顧客関係などソフト面も重要になることを前提として,ソフト面の要素と無形資産が長期的な財務的成功に貢献することを明らかにした。BSCは包括的業績評価を基礎とし,その後,戦略経営実践の枠組みとして,組織を変革するツールとして進化している。
BSCの基本概念の特徴は,第1は組織のミッション・ビジョンを組織構成員に浸透させ,ビジョンの達成に向けて戦略策定,実行,組織改革を目指すものであること。第2は4視点(財務,顧客,業務プロセス,学習と成長)を設定し,戦略として基本の4視点でのタテの因果連鎖を強調したこと。第3は戦略マップでの縦の因果連鎖,指標間の先行(lagging indicators)・遅行(leading indicators)の関係を明らかにしたこと。第4は「ダブル・ループ学習」である。BSCでは戦略を成功に導くための手段(シングル・ループ学習)のほか,ビジネス環境内で入手した新情報により,戦略それ自体をどのように修正するための基盤(ダブル・ループ学習)として使用する。第5はBSCを病院など医療機関で導入する場合,職員間のコミュニケーション,院外とのコミュニケーション向上に役立ち,さらには,アカウンタビリティを果たすことといえる。