診療情報交換(HIE)

Health Information Exchange

 米国では2004年,医療情報化政策として2014年までに全国民の電子カルテ化を進める方向が打ち出された。その後,市や郡レベルのRHIO(Regional Health Information Organization)と呼ばれる地域連携ネットワークと,それを接続する連邦レベルのネットワーク構想が発表されたが,一部を除いてなかなか広がらず,背景として医療機関への電子カルテ導入が遅々として進んでいないことが指摘された。その後,2009年の米国再生・再投資法の一環として,EHR(Electronic Health Record)の有意味な活用を促進するMeaningful Use(MU)政策が打ち出された。2010年にはMUの3段階「データの取得と共有」,「意思決定支援による先端的ケアプロセス」,「アウトカムの向上」が示された。政府主導によるEHRシステムの適合性認定と,認証EHR製品の公表がなされている。MUでは認証EHRの有益な利用に対し,公的保険であるメディケア・メディケイドの加算としてインセンティブ・ペイメントが支払われる。加算の基準には質のメジャー(Quality Measures)の報告と,電子処方・退院時サマリーの患者への提供が含まれている。

 MUプログラムでは,2014年時点で260億ドル(2兆6千億円)の投資がなされ,いかに効率的,効果的に全ての医療機関の情報化をはかるかが議論されてきた。その中で,高額な大規模システムありきではなく,必要な診療情報の共有に焦点をあてた診療情報交換(Health InformationExchange: HIE)とよばれる概念が導かれた。HIEは質の高い,安全な患者ケアのために,適切に,時宜を得て患者情報の共有をはかることで,ケアの意思決定を支援し,再入院,投薬過誤を防ぎ,重複検査の削減に寄与し,診断を向上させることを目指す。HIEには3つの形が定義されている。一つは「有方向交換(Directed exchange)」とよばれ,医師等が患者情報を他の医療専門職に送る場合を指す。例えば,診療所の医師が患者紹介で,処方やプロブレム,サマリーを病院の医師に送る場合などである。二つ目は「クエリーに基づいた交換」とよばれ,医療者がアクセス可能な患者情報の検索・発見を行う場合である。例えば救急治療室で医師が薬剤投与歴,最近の放射線画像,プロブレムリストなどの患者情報にアクセスする場合などである。三つ目は「患者を介した交換」とよばれ,患者が複数医療提供者における自身の診療情報を収集し,あたかもオンラインバンキングの口座管理のように,自身の健康情報の利用をオンラインで管理することを想定している。

 HIEの目的は,我が国で推進されている地域医療連携システムの目的に一致しているが,HIEは実装形態・方法を問わず,必要な診療情報を共有するという目的を端的に表す用語として国際的に使われるようになっている。

【関連用語】

HER(Electronic Health Record),Meaningful Use(MU)政策,メディケア・メディケイド,質のメジャー,地域医療連携システム,退院時サマリー,プロブレムリスト