Total Quality Management
TQM(Total Quality Management:総合的品質管理・総合的質管理)は経営管理手法のひとつで,「品質(質)全般に対し,その維持・向上をはかっていくための考え方,取り組み,手法,しくみ,方法論などの集合体」とされる。使う領域によって,Qualityを「品質」としたり「質」としたりする場合がある。また,日本語で訳すと同じ「管理」になってしまうManagementとControlの混乱を避ける目的でManagementをカナ表記にしたり経営と訳したりして「総合的品質(質)マネジメント」「総合的品質(質)経営」とする場合もある。
TQMの歴史はQC(Quality Control:品質(質)管理)に遡る。1930年代に米国で製造業を中心に始まったQCは,当初統計的手法などを使って「結果(製品)」を評価するものであったが,次第に「プロセス(工程)」を改善することで品質(質)を向上させることが重要であるとされるようになった。製造の現場から他の部署への応用や,各部署で別々に取り組まれていた活動の連携なども進み,我が国ではTQC(Total Quality Control:全社的品質(質)管理)として,組織を挙げての全社的な活動として展開していくことになった。その後,諸外国で用いられていた用語との整合やTQCの再構築の検討などから,基準(要求事項)に照合して統制するという狭義の意味合いで使われることも多い「Control」を,企業活動全体を視野に入れた広義の意味合いを持たせるべく「Management」に置き換える動きが進み,我が国においてTQCの推進に中心的な役割を果たしてきた日本科学技術連盟は,1996年にTQCをTQMに名称変更することを宣言した。医療界においても,1990年代半ばから,当初のQCサークル活動を中心としたQCからTQMとして質管理に取り組む医療機関が出てきた。なお,QCサークル活動は,QCサークル(第1線の職場で働く人々が,継続的に製品・サービス・仕事などの質の管理・改善を行う小グループ)によって行われる小集団活動で,TQMにおける活動のひとつである。
TQMでは,組織の構成要素である「ひと=個人」から「しごと=業務プロセス」「しくみ=組織・システム」までを対象とすることで,総合的・全社的な品質(質)改善が可能になるとし,「科学的アプローチ」「プロセス重視」「組織的アプローチ」という特性を持っているとされる。5S(整理,整頓,清潔,清掃,しつけ)やPDCA(plan-do-check-act)・SDCA(standardize-do-check-act)といった基本的な考え方,統計学を基本にしたさまざまな手法,それらの手法を組み合わせた「QC七つ道具(=手法)(パレート図,特性要因図,ヒストグラム,管理図・グラフ,チェックシート,散布図,層別)」「新QC七つ道具(親和図法,連関図法,系統図法,マトリックス図法,マトリックス・データ解析法,アローダイヤグラム法,PDPC法)」などのツールセット,またFMEA/FTA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モード影響分析/Fault Tree Analysis:故障の木分析)といった分析手法などが開発され活用されている。医療の質管理の観点からだけでなく,医療安全における事故の原因分析や再発防止・未然防止の観点からも,あらためてこうした考え方や手法が注目されている。
TQMの第一の目的がQI(Quality Improvement:品質(質)改善)であることから,継続的な取り組みが必要であることを意識するために,CQI(Continuous Quality Improvement:継続的品質(質)改善)という用語も用いられている。欧米の医療機関ではTQMと同じ意味で使われることも多い。
なお,ISO9001は,QA(Quality Assurance:品質(質)保証)とQCを通して顧客満足や品質マネジメントシステムの継続的改善を進めていこうとするものである。規格であるため,TQMに比べ,適用範囲や内容,基準(要求事項)が明確にされている。「顧客重視」「リーダーシップ」「人々の参画」「プロセスアプローチ」「マネジメントへのシステムアプローチ」「継続的改善」「意思決定への事実に基づくアプローチ」「供給者との互恵関」という八つの品質マネジメント原則を基礎としており,経営者はこれらの原則を組織の実績を向上させるために使用することができるとしている。