Patient Safety Management System
安全で質の高い医療を提供するためには医療機関における組織的な取り組みが不可欠であることから,国の医療安全対策として医療を提供する組織の体制のあり方も検討されることになった。
2001年に設置された「医療安全対策検討会議」によって2002年にとりまとめられた「医療安全推進総合対策」では,「医療機関における安全対策は全ての医療機関において緊急に取り組まれるべき最も重要な課題であり,医療機関においては,管理者の指導の下で,医療安全のための組織的な管理業務が確実に行われるよう取り組むことが必要である」と指摘された。その指摘を踏まえ,同年の医療法施行規則において,病院及び有床診療所に「医療に係る安全管理のための指針の整備」「医療に係る安全管理のための委員会の開催」「医療に係る安全管理のための職員研修の実施」「医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること」が義務付けられた。また「特定機能病院」に「専任の医療安全管理者の配置」「安全に関する管理を行う部門の設置」「医療機関内に患者からの相談に適切に応じる体制の確保」が義務付けられた。こうして医療安全が,医療法をはじめとする関連法規に定められるところとなり,以後,改正を重ね,医療機関における医療安全管理体制の確保と整備が図られている。
医療法施行規則第1条の11には「医療安全管理体制の確保」として,病院等の管理者は,「院内感染対策の体制確保に係る措置」「医薬品安全管理体制確保に係る措置」「医療機器安全管理体制確保に係る措置」「診療用放射線安全管理体制確保に係る措置」「高難度新規医療技術又は未承認新規医薬品等を用いた医療の提供に当たっての必要な措置」を講じなければならないとされており,各項目について具体的な取り組みが定められるとともに,「医薬品安全管理責任者」「医療機器安全管理責任者」「(診療用放射線の利用に係る安全な管理のための)責任者」等の配置も定められている。
診療報酬上の評価による推進も図られている。医療安全対策の充実として,専任・専従の医療安全管理者の配置に関する「医療安全対策加算」,医療機関の連携に関する「医療安全対策地域連携加算」,医療機器安全管理の充実として「医療機器安全管理料」,患者サポート体制の充実として「患者サポート体制充実加算」,さらに,画像診断報告書等の確認に係る体制整備に向けて,報告書管理体制の充実として「報告書管理体制加算」等が定められている。医療安全管理者については,「医療安全管理者のための業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」(2020年3月改訂)にその業務が「安全管理体制の構築」「医療安全に関する職員への教育・研修の実施」「医療事故を防止するための情報収集,分析,対策立案,フィードバック,評価」「医療事故への対応」「安全文化の醸成」とされていることをふまえ,学会や職能団体が養成研修を実施しており,その業務内容は,医療機関によって異なるものの,おおむね標準化されたものになっている。医療安全に関する職種にリスクマネジャーという名称を用いている組織もある。
なお,特定機能病院については,2015年に特定機能病院の取り消しが発生したことをうけ,その承認要件が見直されることなり,新たに「ガバナンスの確保・医療安全管理体制について」として「医療安全管理部門,医療安全管理委員会,医薬品安全管理責任者,医療機器安全管理責任者の業務を統括する医療安全管理責任者の配置」「医療安全管理部門への,専従の医師,薬剤師及び看護師の配置」などが定められることになった。
(注意 1)「専任」が兼任を認めるのに対し,「専従」は(兼任を認めず)専らその業務に従事するものとされるが,医療安全管理者の規定における「専従」は「その就業時間の5割以上を該当業務に従事している場合」としていること,また,特定機能病院の承認要件の見直しにおいては「8割以上」としていることなど,その定義が対象によって異なるので注意が必要である。
(注意 2)「当院の医療安全管理体制」という場合,どのように組織として取り組んでいるのかを一般的に意味する場合と,関連法規に定められた医療安全管理体制を意味する場合があるので注意が必要である。