Informed Consent(以下IC)
ICは「正しい情報を与えられた上の同意」を意味し,ICを行う主体はあくまで患者あるいは治験の被験者であり,医療者ではない。歴史的にはナチスドイツの人体実験への反省から,被験者の同意の前提としての説明義務が提唱されたことから始まり,ヘルシンキ宣言を経て,日本では1997年に医療法が改正され,その第1条の4第2項で「医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と定められた。さらに2005年から個人情報保護法が施行され,医療者側が持つ患者情報について,自己情報のコントロール権と自己決定権が確保されるに至り,診療録開示の法的根拠にもなった。ICにおいて医療者側が説明責任を果たすためには,当該患者の(1)病名および現症状とその原因,当該診療行為の(2)採用理由と有効性・(3)内容・(4)リスクおよび発生頻度・(5)合併症・(6)施行による改善の見込み・(7)不施行の場合の予後,(8)他に取り得る治療方法の有無,(9)セカンド・オピニオンの可能性などに言及する必要がある。このICの取得プロセスは,上記(1)~(9)の項目を中心に診療録に明示しておけなければならない。「診療に落ち度はなかったが説明が不十分である」として説明義務違反を問われた判例は数多く存在する。
また医療者と患者の間には,医療に関する情報の非対称性が存在するため,患者の理解を得るための適切な説明には,幾つかの取り組みが必要である。すなわち患者の自己決定権を保証する情報提供なので,患者本人に対してわかりやすい説明を行うこと,患者側に立つ第三者(家族などを含む重要他者)を同席させること,同意の撤回の自由を明確にすることなどである。ICの直接的取得が困難な場合として,未成年患者,意思の疎通が出来ない患者,生命の危機に瀕している救急患者などがあり,重要他者や後見人を本人代理とする対応となるが,より慎重な倫理的配慮が必要になる。また昨今では特定機能病院の承認要件として,ICに係る責任者の配置も求められるようになった。