分析手法

Analytical Method

 社会事象やシステムに対する分析手法とは,科学的に標準化された方法によって,その全体を出来るだけ細かく分解して,それを成立させている要素や背景を明らかにする手順を言う。大きくは事後学習と,事前対策に大別される。前者には,RCA(root cause analysis,根本原因分析法)があり,問題事象の直接原因から再帰的に次々に原因を列挙して,因果的階層を明らかにする。その他にも,航空業界で開発されたSHELモデル,要因-対応策のマトリクスを作成する4M-4E法,登場人物ごとに発生事象を時系列に整理する VTA(バリエーション・ツリー・アナリシス)などがあり,多くの改良型がある。後者の例として,FMEA(failure mode effect analysis,失敗モード影響分析法)があり,全プロセスにおいて起こりうる失敗をすべて列挙してその影響を定量評価して対策立案する。いずれも網羅性を担保するために,参加者の柔軟な発想を基にしたブレーン・ストーミング法を用いることが特徴で,同時に深層原因に迫るためになぜ(why)を数回繰り返すことも推奨されている。さらに国情や制度を越えて体系的な事故調査を行うために,ロンドン・プロトコルが提唱されており,データ収集・原因分析・対策立案という一連のプロセスについて,順を追って多角的な検討が出来るような設計となっている。特に医療事故調査においては,個人の責任を追及せずにシステムの分析に焦点を当てることが大原則であり,個人インタビューも含めすべてのデータを文書化し,時系列に事象を整理し,過重労働・不十分な知識や経験・不適切な監督・ストレスの強い環境・不適切なコミュニケーション・貧弱な計画立案・保守点検の不備など,寄与要因と呼ばれる幅広い背景状況を網羅的に精査する必要がある。またスイスチーズ・モデルは,システムの多重的欠陥の連鎖によって事故が発生するメカニズムを,穴を貫通する例えで明示している。こうした分析では,工学専門家をチームに加えれば分析結果もより精緻なものになるが,現場で行う分析は事故原因の学問的な追究ではなく,危険因子を排除する対策を立案し,安全を確保することにある。分析に不慣れであると結果にばらつきが生じやすいが,それでも表在化した事象のみへの対策立案よりもはるかに勝る。対策立案を画餅にしないためには,資源投入の権限のある病院幹部が采配し,ゴールを設定し,担当責任者を決定することが重要である。

【関連用語】

RCA,根本原因分析法,SHEL モデル,4M-4E 法,VTA,FMEA,失敗モード影響分析法,ロンドン・プロトコル,スイスチーズ・モデル