医療倫理教育

Ethics Education in Research and Clinical Site

  1. 研究倫理
     わが国では2008(平成20)年に「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省)を通じて,臨床研究者に対し倫理教育を受けることが義務付けられた。2017(平成29)年5月からは,人を対象とする医学系研究の実施に当たり,全ての関係者が遵守すべき事項を定めた統合指針「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省)が行われ,「臨床研究法」も成立、研究倫理教育の履修が一層強く求められている。
     研究倫理の教育に関し,日本学術振興会は『科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-』をもとに,時間と場所を選ばずに研究倫理を学修できるよう作成したeラーニング「研究倫理eラーニング」を提供している(https://elcore.jsps.go.jp/top.aspx)。
     また,最新の医学教材を提供することを目的に,2005(平成17)年4月にJapan US MedicalEducation Consortium(JUSMEC,NPO法人日米医学教育コンソーシアム)が結成され,登録制のeラーニングによる研究者行動規範教育である,CITI Japan PROGRAMが提供されている。医学研究者・医療関係者,理工系を含む科学研究者の生涯教育を目指したカリキュラムが準備されている(APRIN eラーニングプログラム)。
  2. 臨床倫理
     医療プロフェッショナル(専門職)が,生命倫理・医療倫理に関する基本的知識を身に付け,医療現場における法規・倫理・社会・心理・文化・宗教的な諸問題を的確に認識し,医療・ケアチームとして適切かつ迅速に対応することで,医療・ケアのアウトカムを向上させることが,臨床倫理を学ぶ目的である。病院倫理委員会は,職員の倫理教育,施設の倫理指針作り,臨床倫理の問題解決に助言を与える役割を担う。病院職員は倫理的な難題を一人で抱え込まずに,多職種による病院倫理委員会に助言を求めることで,専門家の支援を受け,ひいては患者アウトカムを向上させることができる。
     いわゆる「法の欠缺(けんけつ)」として,臨床倫理上問題とされる難問の例は,自発呼吸のないALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の気管切開下陽圧換気の中止である。たとえ患者本人の明示の意思表示・家族の承諾があっても,刑法202条(自殺幇助罪)に抵触し,人工呼吸器の取り外しを実施した医師は,違法性が阻却されない可能性が高い。日本神経学会ALSガイドライン(2013(平成25) 年)は,「人工呼吸器の取り外しに対しては現状では違法性阻却が認められておらず,実施することは困難であるが,この問題についてはさらなる議論と社会的コンセンサスを形成する時期にきている。」また,日本医師会:医師の職業倫理指針[第3版](2016 (平成28) 年)は,「必ずしも終末期患者とはいえないが,ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の延命治療,持続性植物状態患者の延命治療,特に経管栄養の中止についても問題がある。これについても容認する意見がある一方,かなり強い反対意見もあり,国民的な議論が必要とされるであろう。さらに,慢性期疾患や認知症患者における終末期のとらえ方も変わりつつあり,今後の推移を見守る必要がある。」としている。
     このような臨床倫理上の難問題については,「人生の最終段階における医療の決定プロセスガイドライン」(2015 (平成27) 年3月,厚生労働省)に則り,結論を急がず,医療・ケアチーム内で議論を積み重ねる。チーム内で結論が出ない場合は,病院倫理委員会の判断を仰ぐ。さらに,院内でも結論が出ない場合は,外部の臨床倫理専門家に相談するなど,決定プロセスを積み重ねることが重要である。

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