臨床研究法

Clinical Trials Act

 臨床研究は、医薬品・医療機器等の開発候補物質が実用化可能かといった開発の探索的研究手段として、重要なものであり、同種同効薬同士の有効性に関する比較研究や、手術と抗がん剤の組み合わせとの関係で最も効果的な医薬品投与時期の研究など、様々な診療ガイドライン等の検討を行う場面においても臨床研究が実施されている。

 そこで、医薬品等を人に対して用いることにより、その医薬品等の有効性・安全性を明らかにする臨床研究を法律の対象とすることとし、臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し、もって保健衛生の向上に寄与することを目的として、臨床研究の実施の手続、認定臨床研究審査委員会による審査意見業務の適切な実施のための措置、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の制度等を定める臨床研究法が2017年4月14日に公布され、2018年4月1日に施行された。

 同法においては、臨床研究の実施に関する手続として、特定臨床研究(薬機法における未承認・適応外の医薬品等の臨床研究、製薬企業等から資金提供を受けて実施される当該製薬企業等の医薬品等の臨床研究)を実施する者に対して、①モニタリング・監査の実施、②利益相反の管理等の実施基準の遵守及びインフォームド・コンセントの取得、③個人情報の保護、記録の保存等を義務付けた。

 また、特定臨床研究を実施する者に対して、実施計画による実施の適否等について、厚生労働大臣の認定を受けた認定臨床研究審査委員会の意見を聴いた上で、厚生労働大臣に提出することを義務付けた。

 さらに、特定臨床研究以外の臨床研究を実施する者に対して、実施基準等の遵守及び認定臨床研究審査委員会への意見聴取に努めることを義務付けた。

 特定臨床研究を実施する者に対して、特定臨床研究に起因すると疑われる疾病等が発生した場合、認定臨床研究審査委員会に報告して意見を聴くとともに、厚生労働大臣にも報告することを義務付けた。

 実施基準の違反に対し、厚生労働大臣は改善命令を行い、これに従わない場合には特定臨床研究の停止等を命じることができる。厚生労働大臣は、保健衛生上の危害の発生・拡大防止のために必要な場合には、改善命令を経ることなく特定臨床研究の停止等を命じることがでる。

 製薬企業等の講ずべき措置については、製薬企業等に対して、当該製薬企業等の医薬品等の臨床研究に対して資金を提供する際の契約の締結と、資金提供の情報等の公表を義務付けた。

 一方、臨床研究中核病院の制度に関しては、2014年6月の医療法の改正により、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院を臨床研究中核病院として制度化され、2015年4月に施行された。

 2015年に国立がん研究センター中央病院、東北大学病院、大阪大学医学部附属病院、国立がん研究センター東病院が、2016年に名古屋大学医学部附属病院、九州大学病院、東京大学医学部附属病院、慶應義塾大学病院が、2017年に千葉大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、岡山大学病院が、2018年に北海道大学病院がそれぞれ指定されている。

【関連用語】

臨床研究中核病院 (Core Clinical Research Hospital)

 2014年6月に効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに,地域包括ケアシステムを構築することを通じ,地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するため,医療法が改正され,臨床研究中核病院制度が2015年4月に施行された。臨床研究中核病院制度は,日本発の革新的医薬品,医療機器等及び医療技術の開発等に必要となる質の高い臨床研究や治験を推進するため,国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的な役割を担う病院として,特定臨床研究に関する計画を立案し,及び実施する能力,他の病院又は診療所と共同して特定臨床研究を実施する場合にあっては,特定臨床研究の実施の主導的な役割を果たす能力,他の病院又は診療所に対し,特定臨床研究の実施に関する相談に応じ,必要な情報の提供,助言その他の援助を行う能力,特定臨床研究に関する研修を行う能力を備え,かかる病院としてふさわしい人員配置,構造設備等を有するものについて臨床研究中核病院として承認するものである。

 医療法第4条の3において,「病院であって,臨床研究の実施の中核的な役割を担うことに関する次に掲げる要件に該当するものは,厚生労働大臣の承認を得て臨床研究中核病院と称することができる。」とされた。主な要件は,以下の通りである。また,厚生労働大臣は,臨床研究中核病院の承認をするに当たっては,あらかじめ,社会保障審議会の意見を聴かなければならないこと,臨床研究中核病院でないものは,これに臨床研究中核病院又はこれに紛らわしい名称を称してはならないことが規定されている。

【要件】
  1. 特定臨床研究(厚生労働省令で定める基準に従って行う臨床研究)に関する計画を立案し,及び実施する能力を有すること。
  2. 他の病院又は診療所と共同して特定臨床研究を実施する場合にあっては,特定臨床研究の実施の主導的な役割を果たす能力を有すること。
  3. 他の病院又は診療所に対し,特定臨床研究の実施に関する相談に応じ,必要な情報の提供,助言その他の援助を行う能力を有すること。
  4. 特定臨床研究に関する研修を行う能力を有すること。
  5. その診療科名中に厚生労働省令で定める診療科名を有すること。
  6. 厚生労働省令で定める数以上の患者を入院させるための施設を有すること。
  7. その有する人員が厚生労働省令で定める要件に適合するものであること。
  8. 所要の施設を有すること。
  9. 構造設備が厚生労働省令並びに同項の規定に基づく都道府県の条例で定める要件に適合するものであること。
  10. 前各号に掲げるもののほか,特定臨床研究の実施に関する厚生労働省令で定める要件に適合するものであること。

 この「特定臨床研究」については,2015年3月の医政局長通知で,医薬品・医療機器・再生医療等製品を用いた臨床研究を主導的に実施した実績が80件以上あることに加え,当機関に所属する医師等が特定臨床研究の実施に伴い発表した質の高い論文の数が過去3年間で45件以上であること,といった条件が示されている。